はじめに
プロポーズが成功し、いよいよ結婚へと向かって準備をスタートさせるとき、避けて通れないことが「彼女の両親への挨拶」です。どれだけ2人の気持ちが固まっていても、彼女のお父さんがOKを出さなかったらなかなか前へ進むことはできません。
そしてこれから先、彼女の実家と良好な関係を築いていくためにも最初の挨拶はとても重要です。人の第一印象は、一度決まってしまったらなかなか変えることができません。何か失敗したらその印象がずっと続いてしまいます。裏を返せば、最初に好印象を持ってもらえたらその先のお付き合いはずっと楽になるということです。
本記事では、彼女の両親へ結婚の許しを得るための初めての挨拶の時、絶対気をつけるべきことをマナー講師の立場から語っていきます。
目次
1.初めての挨拶 【準備編】
彼女の実家へ初めて挨拶に行くなら、それなりの準備が必要です。思い立ったが吉日、いきなり押しかけて「結婚したいんです」と切り出してもうまくいくはずがありません。
そればかりか彼女の両親から「非常識な人」というレッテルが張られ、彼女との関係にも悪影響を及ぼすこととなりかねません。
初めての挨拶ではきちんとした振る舞いで誠実さを伝え、「気遣いのできる相手だな」と思ってもらうことが何より大切です。
それでは、さっそく準備の具体的な内容について見ていきましょう。
1-1.アポはいつごろ取るべき?
彼女の両親に初めて挨拶に伺うときは、事前に必ずアポを取りましょう。
目安は訪問したい日の1カ月前から2週間前までです。
1カ月以上前だと、予定がまだはっきり分からなかったり、先のこと過ぎてなんとなく間延びした印象を受けたりします。
反対に直前すぎると相手の準備が間に合わず、家の人も慌ててしまいます。大事な娘の彼氏が初めてわが家にやって来るという出来事は、彼女の両親にとっても大きなイベントです。
“家の中を素敵にしておきたい”
“お茶やお菓子にもこだわりたい”
“何を着よう……それより当日着る服を新調しなくては”
“美容院に行ってきちんとしたい”
等々、やりたいことは意外とたくさんあるのです。
相手の家族に対する気遣いを持って日にちを決めましょう。
1-2.服装は清潔感が第一
しつこいようですが、人の第一印象はほんの数秒で決まってしまい、一度決まったらなかなか変えることができません。
挨拶の時、最初に目に入ってくる服装は彼の第一印象を大きく左右します。きちんとした人として好印象を持たれるよう、スーツを選びましょう。派手な色や凝ったデザインはやめて、あくまで控えめにします。
一番大切なのは清潔感です。シャツにはきちんとアイロンをかけ、上着の袖やズボンの裾はほつれていないか、ポケットは物が入りすぎて膨らんでいないか、靴は汚れていないか等、くまなくチェックしましょう。
流行の最先端ファッションで決めて自分がいくらおしゃれだと思っていても、相手にだらしない格好と思われてしまっては台無しです。
また、服装と同様、髪型にも注意してください。ご両親世代の多くは、奇抜なカラーや長髪に抵抗があります。この時ばかりは髪色を黒くしたり束ねたりするなどして、けじめのあるところを見せましょう。
あくまで「彼女の両親から見て好青年と思ってもらえるか」が判断基準です。
同席する彼女にもバランスを考えてもらい、実家のいつものくつろいだ格好はやめて、それなりのきちんとした身だしなみで結婚に対する真剣な思いを表現してもらうことが大事です。
1-3.手土産は何にする?
初めての挨拶に手土産は必須です。当日彼女の家に向かう途中で買っていこう……そう思っていても、遅刻しそうになったりちょうど良い品物が見つからなかったりして焦ってしまっては、落ち着いて挨拶ができなくなってしまいます。
手土産は事前に用意しておきましょう。予算は大体3,000~5,000円程度で日持ちするものを選びます。
家族の中には、体調管理の一環として日頃から塩分を控えていたり、病気等で甘いものを制限していたりする人がいるかもしれません。手土産選びは家族のことをよく知る彼女に意見を聞くと安心です。
お父さんやお母さんの好物が分かればそれを選んだり、自分の地元で評判の品物を渡したりしても喜ばれます。
彼女の両親は、あなたからのお土産に大きな期待を寄せているわけではありません。あなたが一生懸命選んでくれたその“気持ち”が嬉しいのです。
2.初めての挨拶 【当日編】
準備も整っていよいよ挨拶する当日は、緊張もマックスです。
彼女の両親は”いったいどんな人なんだろう”と期待を胸に待ち構えています。
「自分の娘にふさわしい素敵な青年でありますように……」
親の願いは万国共通です。
”この人なら大丈夫、娘を安心して任せられる”と思ってもらえるよう誠実さをアピールしましょう。だからといって特に好青年を演じる必要はありません。
基本的なマナーさえ押さえたら、あとはいつも通り振る舞うことができれば十分です。
では、挨拶の流れと必要なマナーについて順を追って確認していきましょう。
2-1.遅刻は厳禁
当日の遅刻は厳禁です。時間には余裕を持って行動しましょう。約束の時間の5分前には到着し、身なりを整えて2~3分前から時間ピッタリの間にチャイムを押すのが理想です
5分以上前に到着してしまうと、先方は準備がまだで慌ててしまうかもしれません。早ければ良いというわけではないため、予定より早く到着したとしても約束の時間を大きく外さないよう上手に調整します。
忘れてはいけないのが、「ピンポンする前にコート類は脱いでおくこと」です。これはコートに付いた外からのホコリを家の中に持ち込まないための気遣いであり、ビジネスの場でもマナーとして徹底されています。
少々寒くてもコートは前もって脱ぎ、身だしなみをササッと整え、ひと呼吸おいてから門をくぐりましょう。
そしてスマホはマナーモードか電源オフにしてあるか、このタイミングで確認しておきます。
2-2.玄関での挨拶は明るくハキハキと手短に
彼女の家の人が玄関のドアを開け、出迎えてくれたらまずは挨拶です。
明るくハキハキした声で話します。
「はじめまして、こんにちは。○○○○(自分の名前)です。今日はお時間を取っていただきありがとうございます!」
と、ここでは簡単な挨拶にとどめます。部屋に通してもらってから改めて挨拶するので、ここで長々と話す必要はありません。
何より大切なことは“笑顔”であること。
緊張するのは当たり前のことですが、暗い表情や真顔のままではその先の会話も弾まなくなってしまいます。
「イ」の口を意識して口角を上げ、少し歯が見えるくらい笑顔が出せたら好感度は一気に上がります。
そして「さあ、上がって!」と言われたら「失礼します」「お邪魔します」などと一言断ってから靴を脱ぎます。
脱ぎっぱなしはNGです。向きをそろえて玄関の端に置きましょう。
このときまだ手土産は渡しません。手土産は部屋に入って改めて挨拶する時に渡すため、この時点ではそのまま持って上がります。
2-3.部屋に通された下座に座る
部屋に通されたら座る場所にも注意が必要です。
部屋の席には上座と下座があります。上座は1番目上の人や敬うべき人が座る場所で、下座はその反対です。結婚を申し込む立場としてお邪魔するのですから、あなたは今回下座に座ります。
下座は基本的に出入り口に1番近い場所です。
迷いそうで心配なら、あらかじめ彼女にリビングの配置を聞いておきましょう。
ただし家の人にとって「彼はお客さま」という立場ですから、上座を勧められる可能性もあります。その時は「失礼します」と言って遠慮しないで上座に座ります。
ちなみに和室の場合、勝手に座布団には座らず最初は畳の上に正座し、家の人から「どうぞ座布団を使ってください」と言われてから座布団の上に正座します。
2-4.部屋の中であらためてご挨拶、順番はお父さんから
部屋に通されて家族がそろったところで、改めて挨拶をします。
この時、座ったまま挨拶することはマナー違反です。椅子から立ち、きちんとした姿勢で、今日時間を作ってくれたことに対して感謝の気持ちを伝えます。
まずはお父さんに向かって、次にお母さんの方を向いて同じように挨拶します。
ちなみに和室で座布団に座っているときは、立ち上がりません。代わりに座布団を外し、畳の上に正座をして挨拶をします。これができたら、作法にうるさい家庭からも高評価を得られるはずです。
2-5.手土産の渡し方
部屋の中で改めて挨拶が済んだら、ここで手土産を渡します。
紙袋から取り出し、両手で丁寧に持って差し出しましょう。
くれぐれも「つまらないものですが」と言わないでください。アレコレ思いを巡らせて頑張って選んだお土産ですから、そこまで言葉を落とす必要はありません。
「お母さんがお好きと聞きました。皆さんで召し上がってください」
「地元で評判のお菓子です。お口に合うと良いのですが……」
など、気持ちを伝えながら渡した方が、受け取る方もよっぽど嬉しいものです。
紙袋はコート同様、外からのホコリが付いているものと見なすため、基本的には自分で持ち帰りますが、「どうぞ置いていって」と言ってもらえたときはお言葉に甘えて置いて帰りましょう。
2-6.話の切り出し方
話はどのように切り出したらよいでしょう。
まずはタイミングを計ることが大切です。挨拶をし終わってすぐではあまりに唐突過ぎます。
少し世間話をして場を和ませた後、自己紹介をしておきます。話す内容は難しく考えることはありません。
天気の話や、家周辺の地域の話(『この駅で降りたのは初めてです」『この辺りは○○で有名ですね』)など、たわいもないことで十分です。
一通り自分のことを伝えたら、彼女とはいつ頃どのように知り合ったのか、なれそめを軽く話し、それとなく前ふりをしておきましょう。
その頃には家の人がお茶やお菓子を用意してくれているでしょう。茶菓は「どうぞ」と勧められてから頂きます。食べ終わった頃に切り出すのがスマートです。
彼女の両親も、何のためにあなたが今日来たのかは気づいているはずですから、話を聞く態勢はできています。
改めて身なりを直し、姿勢正してから話し始めましょう。
「改めまして、今日は○○さんと結婚させていただきたくご挨拶をと思い伺いました」と簡潔に切り出します。
その後は
- 彼女のことをいかに大切に思っているのか
- 彼女にはプロポーズしてOKをもらっていること
- 両親にも結婚を認めてほしいこと
など、心を込めて伝えましょう。
2-7.どんなことを聞かれる?
両親にとって彼女は、生まれてからこれまで手塩にかけて育てた大事な娘です。娘の幸せを願い、この人に託して本当に良いのかしっかり見極めたいという気持ちがあるのは当然といえます。
あなた自身だけでなく、あなたの家のことも聞かれると心得ておきましょう。
- 仕事内容(娘が安定した生活を送ることができるか、きちんとした収入はあるのか)
- 家族構成(兄弟は?長男なのか次男なのか、姉妹(小姑)はいるのか)
- 実家の場所(将来、娘は遠くへ行ってしまう可能性があるのか)
- 趣味(ギャンブルなどやってないか、どんなことにお金を使うタイプなのか)
中には、「履歴書を持っていった」「勤務先の会社パンフレットを持っていった」という人もいます。必ず飛んでくるような質問にはきちんと説明できるように用意しておくと安心です。
2-8.ところでお父さんと呼んでも良いの?
いざ彼女の親を前にして、何と呼べば良いのか悩むところですが、「お父さん」となれなれしく呼ぶのはふさわしくありません。
テレビドラマのように「君のお父さんになった覚えはない!」と面と向かって言われることはないにしても、大抵は不快な気持ちにさせてしまいます。
初めての挨拶の場では、「○○さんのお父様、お母様」と呼ぶのが一番礼儀正しく失礼がありません。
彼女のことを普段通りの呼び捨てや「ちゃん」付け、あだ名で呼ぶのはやめて、「さん」付けで大切に思っている気持ちを表します。
ちなみに自分のことは最も丁寧に「私」で統一するか、彼女の両親がざっくばらんなタイプであれば「僕」でも問題ないでしょう。
2-9.出されたものは基本的に全部食べる
お茶や食事を用意してもらったら、遠慮なく頂きましょう。
タイミングは(いただくのは)お父さんが口を付けてからです。誰よりも早くさっさと食べ始めてしまうと、常識を知らない人間と思われてしまいます。
また、出されたものは基本的に全部頂きましょう。
どうしても苦手なものがある場合は、「せっかくの料理を申し訳ありません。恥ずかしいかぎりですか、どうしても苦手なものでして……」と正直に伝えます。気分が悪くなるよりはいくらかマシです。
このような事態に陥らないためには、彼女にあらかじめ苦手なものを伝えておき、料理レシピから外してもらうことが最善の方法です。
2-10.長居は無用
初めての挨拶で長居は無用です。緊張の中、長時間滞在するとお互いに疲れてしまします。また午後のお茶の時間に訪れて長居すると夕食の時間に差し掛かってしまい、“夕飯も用意したほうが良いのかしら”とお母さんも気をもんでしまいます。
出迎えた側の親からは、なかなか「もう帰ってくれ」とは言い出せません。
あなたの方から「あまり長居してもご迷惑ですので、今日はこのあたりで失礼いたします」と切り出しましょう。
玄関先では改めて感謝の挨拶を忘れずに。最後の印象は余韻として長く残ります。丁寧なお辞儀と明るい笑顔で締めくくってください。
なお、コート類は基本的に玄関を出た後に着ます。ただし「寒いからどうぞ中で着て」と言ってもらえたらここは遠慮なく「ありがとうございます」と一言述べてから着るとよいでしょう。
2-11.絶対にやってはいけないNG行為
結婚の挨拶訪問という大事な山場を迎えるに当たり、絶対にやってはいけないNG行為があります。
せっかく話がうまく進んでいても、たった1つのミスで空気がガラッと変わってしまうことは実によくあることです。
- 緊張しているからといってヘラヘラしない
- 彼女といつものようにベタベタしない
- 冗談でも彼女の悪口を言わない
- いくら打ち解けても両親とタメ口でしゃべらない
- お酒を勧められても飲み過ぎない
彼女の両親の機嫌が悪くならないよう、これだけは注意しましょう。
3.初めての挨拶【帰宅後編】
無事に挨拶も終了して自宅に帰ったら、ホッとすると同時に疲れもドッと出てくるでしょう。緊張が解けて一気に解放された気分となりますが、最後の仕上げにやっておくべきことがあります。
彼女の実家とのつながりは、これからさらに深くなっていきます。
帰宅後も気を抜かず、最後のひと踏ん張りで、今後の信頼関係アップを図りましょう。
3-1.今日のお礼を伝える
帰宅した時間が夜遅くないかぎり(21時より前が目安)、その日のうちにお礼の電話をします。
お礼の内容は、今日会う時間を設けてくれたことに対して、美味しいお茶やお菓子または食事を用意してくれたことに対してです。結婚を許してもらえたなら、彼女を大切にする気持ちをもう1度宣言しましょう。
お礼の連絡は当日中がベストですが、状況的に難しい場合は翌日でも構いません。ただし午前中のなるべく早いタイミングを心がけます。
また、お礼状を書くこともお勧めです。メールやSNSと違い、手間暇かけて直筆で書く手紙には温かい心が宿り、誠実さや丁寧さがよく伝わります。挨拶当日か翌日中には書き上げ、少なくとも1週間以内には届くようにすると、彼女の両親も喜んで2人のことをますます応援してくれるでしょう(ます)。
3-2.次回に備えて話したことをメモしておく
忘れないうちに、今日の挨拶で話したことや分かったことをメモしておきましょう。
お父さんやお母さんの趣味、大切にしていることや物、話題にしたニュースやスポーツ、反対にあまり好きではない話題、家に飾ってあった花やインテリアなど、思いついたことを全て書き出しておきます。
次回会った時の話題作りに役立ちますし、「こんなことまで覚えていてくれていて嬉しい」と好感度アップ!さらに良い関係を築くことができます。
これから長く続くお付き合いです。良い関係をキープするにはマメさも必要ということです。
4.こんな時はどうする?
彼女の親に初めての挨拶をするとき、そのシチュエーションは千差万別。家庭の数だけ挨拶シーンがあると思って良いでしょう。
最後は「こんな時はどうする?」と悩んでしまった時のためのアドバイスです。
4-1.場所がレストランや料亭のときのマナー
挨拶の場所が彼女の実家ではなく、レストランや料亭の個室といった場合もあります。
振る舞いとしては、家で挨拶する場合と同様です。下座に座り、お店スタッフに気遣いを見せると(料理が運ばれたときに「ありがとうございます」と言ったり、皿を奥の席へ回したりするなど)さらに好青年をアピールすることができます。
お土産は、家では紙袋から取り出して渡しますが、お店の場合は紙袋に入れたまま渡します。中身だけ受け取っても、彼女の両親は持って帰るのに困ってしまいます。「紙袋のままで失礼します」と一言添えれば丁寧さも伝わります。
またこの場合、あなたはおごってもらうことがほとんどです。帰り際に必ずごちそうになったお礼を言いましょう。
4-2.相手が喪中だったら
相手が喪中のときは細心の配慮をすべきです。初めての挨拶は少なくとも四十九日を過ぎてからにします。
喪中に対する考え方や受け止め方は地域や家庭によって違うため、タイミングに迷うなら四十九日後に彼女から両親へ率直に聞いてもらった方が良いでしょう。
自分たちの都合だけで決めずに気遣いの心を持って、いつごろなら伺っても大丈夫なのか、相手の都合に合わせることが何より大切です。
まとめ
彼女の家に初めて挨拶する日は、誰だって緊張します。その緊張を乗り越えた先に見えてくるのが本当の結婚です。
互いの両家を結ぶ第一歩は、あなたの大きな役割でもあります。彼女の家族に好印象で迎え入れてもらえるよう、ぜひ気合を入れて頑張ってください。